- 検証/原文●duck 編集●ハッチ

パソコン(PC)の規定の設定を変更してマージン分の性能を引き上げる「オーバークロック」(OC)は、CPUのイメージが強いがビデオカードや、メモリなども行える。LevelUp Logyでは、これまで2回にわたって日本人初のプロオーバークロッカーとして世界で活躍、最近はメーカーの垣根を越えて製品の真価を実証するプロジェクトSYGNT(シグント)の代表を務めているduck氏による、自動OCと、手動OCの方法をご紹介してきた。全3回でお届けする、第3弾である本稿では、メモリのOCについて深掘りしていく。

今回使用する「ROG MAXIMUS Z890 APEX」とは?
今回の検証に使用した構成は以下のとおりだ。
| 検証環境 | |
|---|---|
| CPU | Intel「Core i7 270K PLUS」(24コア/24スレッド、最大5.5GHz) |
| CPUクーラー | ASUS「TUF Gaming LC III 360 ARGB LCD White Edition」 |
| マザーボード | ASUS「ROG MAXIMUS Z890 APEX」(Intel Z890、ATX) |
| メモリ | Ark Selection Memory「ARD5-U16G88HA-56B」(16GB/DDR5-5600) |
| ビデオカード | ASUS「PRIME-RTX5070TI-O16G」(16GB GDDR7) |
| 電源ユニット | ASUS「TUF-GAMING-1200G」(1200W、80PLUS GOLD) |

「ROG MAXIMUS Z890 APEX」は、Intel Core Ultraプロセッサー(シリーズ2)に対応する、オーバークロック性能を重視したハイエンドマザーボード。22(110A)+1(90A)+2(90A)+2(80A)フェーズのパワーステージを搭載。各パワーステージには45Aを処理するための「MicroFine合金チョーク」を備える。
メモリスロットは2基に絞った設計で、最大128GBのメモリを搭載できる。また、信号経路を最適化することで、対応メモリやCPUなどの条件によっては9000 MT/s(9 GT/s)を超える超高クロックメモリ動作も可能。メモリの設定を支援するAEMP IIIやDIMM Fit、メモリの温度に応じた調整をサポートするDIMM Flexにも対応。さらに、付属のROG Memory Fan Kitによってメモリを冷却し、オーバークロック時の安定性向上を図れる。
さらに、オーバークロックを繰り返すユーザーに向けて、CMOSクリアやBIOS FlashBackのボタンに加え、起動や設定の復旧を支援する各種スイッチ、電圧測定用のProbeItなどを搭載。液体窒素を使った極冷環境でのオーバークロックを想定したLN2 Modeも備えている。
ユーザーの質問に答えてくれる「AI Advisor」(日本語非対応)や、CPUと冷却性能のプロファイルを作成して各システムの最適な設定を予測し、システムの性能を限界まで高めてくれる「AI Overclocking」。ワンクリックでPCの冷却とファンノイズのバランスを調整する「AI Cooling II」、ネットワークを最適化する「AI Networking II」といったAI機能も備える。
そのうえ、5G LANポートを備え、Wi-Fi 7にも対応。背面にはThunderbolt 4対応USB Type-Cポートを2基備えるほか、フロントパネル用USB Type-Cコネクタでは、対応する電源接続時に最大60Wの給電にも対応する。
「Thaiphoon Burner」でメモリのICを確認
duck氏によるとROG APEXシリーズは、2017年に登場してから今日までOC最強マザーボードとして知られている。特にメモリパフォーマンスは突き抜けていて、Auto設定だけではもったいないので、ぜひ手動設定にチャレンジしてほしいとのこと。
手動設定の第一歩は、自分が使用しているメモリICの種類を把握することだ。メモリICはメーカーやダイの種類によって、得意とする動作クロックや、詰められるタイミング、電圧に対する反応などが大きく異なる。特性を理解しておけば、自分のメモリに適した設定を探りやすくなる。
メモリICを判別する方法はいくつかあるが、手軽なツールのひとつが「Thaiphoon Burner」だ。起動させて「Read」で開始するだけでICの詳細が表示される。


次に、duck氏はメモリの手動設定で基準として扱いやすいDDR5-6000を例に、主要なメモリICの特徴とタイミング設定の考え方を解説している。

①SK Hynix A-die(ハイエンド・OC定番)
SK Hynix A-dieは、現在最もオーバークロック耐性とタイト化の余地があるダイ。6000MHzであれば非常に低いレイテンシ(CL30以下)を狙いやすい。
注目したいのが、リフレッシュ関連のタイミングである「tRFC」と「tREFI」だ。tRFC を 480 前後まで下げ、tREFI を上限付近(65535 やそれ以上)に設定すると劇的に性能が向上する。電圧への反応も良くて最大1.65vくらいまではOC耐性も上がる。
②SK Hynix M-die
元々はA-dieの1世代前のダイだが、現在も新しいタイプのノンバイナリー(24GB、48GBなど)のダイがハイエンドメモリにもよく搭載されている。初期のダイに比べ高クロック耐性が飛躍的に向上していて、人気は非常に高い。
6000MHz動作においては、A-dieとほぼ同等のタイミングでベンチなどがそのまま通ることが多い。基本的にA-dieと同様にCL30駆動を狙えるが、初期のダイはOC的にA-dieには一歩及ばない。
③Samsung製ダイ
市販のXMP/EXPOプロファイルでは CL36-38-38 や CL32-38-38 あたりで動作するものが多い。Hynixダイに比べて tRCD や tRP を下げる耐性がやや低め。プライマリを無理にCL30にするよりも、CL32 や CL36 を維持したまま、セカンダリ以降の細かい詰めで性能を稼ぐアプローチの方が安定しやすい。
④Micron製ダイ
発熱が少なく安定志向だが、タイミングを詰めるマージンはHynixなどに比べて狭めなのが特徴。基本的には製品付属のEXPO/XMPプロファイル(通常CL36〜CL42程度)をベースにするのが無難。電圧を過度に盛ってもタイトなタイミングが入らないことが多いので、定格のVDD(1.25V〜1.35V)付近で安定運用を重視するのがおすすめ。
DDR5メモリの実効レイテンシ(True Latency)をナノ秒(ns)で求める基本式は以下のとおり。nsが小さいほど高速となる。CASレイテンシだけの計算式 だが大まかな目安にはなる。
計算式 :
CASレイテンシ(CL) × 2000 ÷ 動作周波数=レイテンシ(ns)
またはレイテンシ(ns) =(CL ÷ 動作周波数)× 2000
下は代表的な実効レイテンシを求めた例になる。
DDR5-4800/CL40(40 × 2000 ÷ 4800=16.67ns)
DDR5-5600/CL36(36 × 2000 ÷ 5600=12.86ns)
DDR5-6000/CL30(30 × 2000 ÷ 6000=10.00ns)
DDR5-7200/CL34(34 × 2000 ÷ 7200=9.44ns)
DDR5-8000/CL36(36 × 2000 ÷ 8000=9.00ns)
DDR5-8000/CL40(40 × 2000 ÷ 8000=10.00ns)
なぜ「2000」を掛けるのかというと、メモリのクロック周波数はデータ転送速度の半分(例: 6000 MT/s なら 3000 MHz)のいわゆるDouble Data Rate(DDR)だからとのこと。1クロックあたりの時間は 1000÷(転送速度÷2)=2000 ÷転送速度 となるため、これにCL(クロック数)を掛け合わせることで実際の時間(ns)が算出できる。
duck氏は王道のスイートスポットの定番と言われる10.00ns付近を目指し、今回はDDR5-6000MHz/CL30をベースに始めている。

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